
工務店の粗利管理:案件別粗利を毎月見える化する方法【2026年版】
案件は回っているのに手元にお金が残らない、決算で初めて赤字案件があったと気づく——工務店でこうした事態が起きるのは、案件ごとの粗利を毎月見ていないことが大きな原因です。粗利は会社が稼ぐ力の源泉であり、案件単位で把握できていなければ、どの工事で利益が出てどの工事で損をしているのか分かりません。本記事では、粗利管理の基本、案件別粗利の計算方法、粗利が消える典型パターン、月次で見える化する運用、改善の打ち手までを実務目線で解説します。
粗利管理とは、案件ごとの完成工事高(売上)から工事原価を差し引いた粗利(売上総利益)を把握し、案件単位で利益が出ているかを継続的に管理することです。会社全体の年間決算で粗利を見るのではなく、案件1件ずつの粗利を着工前・工事中・完了時に追い、赤字の兆候に早く気づくための仕組みを指します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 粗利(売上総利益) | 完成工事高 − 工事原価 |
| 粗利率 | 粗利 ÷ 完成工事高 × 100 |
| 工事原価 | 材料費・労務費・外注費・現場経費 |
| 管理の単位 | 会社全体ではなく案件ごと |
| 管理のタイミング | 着工前・工事中・完了時 |

粗利管理とは:利益率との違いと相場感
粗利管理を始める前に、粗利・粗利率・利益(経常利益や営業利益)の違いを整理しておきましょう。粗利は売上から工事原価を引いた金額で、粗利率はそれを売上で割った比率です。一方、営業利益は粗利からさらに販管費(事務員の給与・事務所家賃など)を引いたもので、現場の採算を直接表すのは粗利のほうです。
工務店の粗利率の相場感としては、建設業全体の売上高総利益率(粗利率)の平均は25.65%という調査があります(出典: 一般財団法人建設業情報管理センター「建設業の経営分析(令和3年度)」)。同調査では売上規模が小さいほど粗利率が高い傾向があり、売上高5,000万円未満の階層では33.72%、売上高20億円以上の階層では15.32%と報告されています。小規模工務店ほど元請に近く、中間マージンを抜かれにくいため粗利率が高く出やすい構造です。
ただし、この数値はあくまで業界の目安です。重要なのは他社平均と比べることより、自社の案件ごとの粗利率を把握し、どの工事が会社の利益を支えているかを見極めることです。
案件別粗利の計算方法
案件別粗利の計算式そのものはシンプルで、「完成工事高 − 工事原価 = 粗利」です。難しいのは計算式ではなく、工事原価を正しく案件ごとに集計する点にあります。原価をどこまで細かく分けて拾うかで、粗利の精度が決まります。
| 原価区分 | 含まれるもの |
|---|---|
| 材料費 | 木材・建材・設備機器・部材など |
| 労務費 | 自社職人の人工(にんく)・現場作業の人件費 |
| 外注費 | 協力会社・職人への外注分 |
| 現場経費 | 仮設・運搬・重機・廃材処分・現場の諸経費 |

実務でつまずきやすいのが労務費と現場経費です。自社職人の人工を原価に乗せずに計算すると、粗利が実態より大きく見えてしまいます。1日あたりの人工単価を決め、現場に入った日数を案件に紐づけて積み上げることで、はじめて正しい粗利が出せます。原価を案件ごとに集計する考え方は、工事台帳とは:書き方・必要項目・エクセル管理の限界まで【2026年版】や建設業の原価管理:工事別原価の把握から利益改善までの実務【2026年版】もあわせて参考にしてください。
粗利が消える典型パターン
着工時には粗利が見込めていたのに、完了時には利益がほとんど残っていない——この「粗利の蒸発」には、いくつか決まったパターンがあります。原因を知っておけば、工事中に手を打ちやすくなります。
| パターン | 何が起きるか | 起きやすい場面 |
|---|---|---|
| 追加工事の無償化 | 追加対応を口頭で引き受け、原価だけ増える | 顧客から「ついでに」と頼まれたとき |
| 手戻り・やり直し | 段取りミスや仕様違いで再施工し原価が膨らむ | 図面・指示の伝達漏れ |
| 安易な値引き | 受注欲しさに見積を下げ、粗利を削る | 相見積で競合と比べられたとき |
| 原価の拾い漏れ | 後から来る請求を見込まず採算を読み違える | 外注の追加請求・端材の追加発注 |

なかでも多いのが、追加工事を無償で引き受けてしまうパターンです(独自整理)。「これくらいなら」と口頭で対応した分の材料費・人工が積み上がり、気づけば見積時の粗利が削られています。追加が発生した時点で金額を提示し、書面で合意する習慣をつけるだけで、消える粗利を大きく減らせます。値引きについても、いくらまで下げると粗利率が何%になるのかを把握してから判断すれば、採算割れの受注を避けられます。
月次で粗利を見える化する運用
粗利管理を続けるうえで効果的なのが、月に1回、進行中の全案件の粗利を一覧で見る運用です。決算まで待たず、毎月「予定粗利」と「現時点の実績原価から見た見込み粗利」を並べて確認すれば、赤字に向かっている案件を早期に発見できます。
工務店HUBでは、見積で立てた予定原価に対し、現場日報で記録した人工や発注額が案件ごとに自動で積み上がります。月次で各案件の見込み粗利が一覧で見えるため、予算を超えそうな案件に工事の途中で気づけます。

月次の粗利確認は、次の3つの数字を案件ごとに並べると分かりやすくなります。(1)見積時の予定粗利、(2)これまでに発生した実績原価、(3)残工事を加味した着地見込み粗利の3つです。この3つを毎月更新していけば、「あと数十万円の原価で予定粗利が消える」といった危険な案件が浮かび上がります。Excelでも始められますが、案件数が増えると更新が追いつかなくなりやすいため、運用が回らなくなった段階でシステム化を検討するとよいでしょう。原価をExcelで管理する限界については工務店の原価管理をExcelから脱却する:赤字案件を事前に気づく仕組み【2026年版】で詳しく解説しています。
粗利改善の打ち手
案件別の粗利が見えるようになったら、次は改善です。粗利を上げる打ち手は「売上を上げる(単価)」と「原価を下げる」の2方向に分けて考えると整理しやすくなります。
| 方向 | 打ち手の例 |
|---|---|
| 単価を上げる | 追加工事を都度見積化・安易な値引きをやめる・付加価値の説明を丁寧に |
| 原価を下げる | 拾い漏れの撲滅・外注単価の見直し・手戻りを減らす段取り |
| 仕組みで支える | 案件別粗利の月次確認・赤字案件の早期検知 |

特に効果が出やすいのは、粗利率の高い工事と低い工事を見極めて、受注の質を変えていくことです。案件別粗利を蓄積すると、「この工種・この顧客層は粗利が取れる」という傾向が見えてきます。粗利の取れる仕事に力を入れ、採算の合わない安売り案件を減らすだけでも、会社全体の粗利は改善しやすくなります。粗利率そのものを引き上げる具体策は工務店の利益率を上げる方法:粗利を案件ごとに管理する仕組み【2026年版】も参考にしてください。これらの打ち手は、案件別粗利という土台があってはじめて実行できる、という点が重要です。
まとめ
工務店の粗利管理とは、案件ごとの粗利を着工前・工事中・完了時に追い、赤字の兆候に早く気づく仕組みです。建設業の粗利率の業界平均は25.65%という調査もありますが、大切なのは自社の案件別粗利を把握することです。粗利は追加工事の無償化・手戻り・安易な値引き・原価の拾い漏れで消えていきます。月に1回、全案件の見込み粗利を一覧で確認し、予定粗利が削られそうな案件を早期に発見しましょう。案件別粗利が見えれば、単価と原価の両面から改善でき、粗利の取れる仕事に力を集中できます。
よくある質問
Q1. 粗利と利益(営業利益)は何が違いますか?
粗利(売上総利益)は完成工事高から工事原価を差し引いた金額で、現場そのものの採算を表します。営業利益は粗利からさらに販管費(事務員の給与・事務所家賃など)を引いた金額です。現場ごとの良し悪しを判断したいときは粗利を、会社全体の採算を見たいときは営業利益を使います。
Q2. 工務店の粗利率の目安はどれくらいですか?
建設業全体の売上高総利益率(粗利率)の平均は25.65%という調査があります(出典: 一般財団法人建設業情報管理センター「建設業の経営分析(令和3年度)」)。同調査では売上規模が小さいほど粗利率が高い傾向があり、売上高5,000万円未満では33.72%と報告されています。ただし工種や地域で差が大きいため、自社の案件別粗利率を基準に考えるのが現実的です。
Q3. 自社職人の人工は粗利の計算に含めるべきですか?
含めるべきです。自社職人の人件費を原価に乗せないと、粗利が実態より大きく見えてしまいます。1日あたりの人工単価を決め、案件ごとに投入した日数を積み上げて労務費として計上すると、より正確な粗利が把握できます。
Q4. 追加工事で粗利が消えるのを防ぐには?
追加対応が発生した時点で金額を提示し、書面で合意する習慣をつけることが効果的です。口頭で「ついでに」と引き受けると、材料費や人工が見積外で積み上がり、粗利を削ってしまいます。追加分を都度見積化するだけで、消える粗利を大きく減らしやすくなります。
Q5. 案件別の粗利はExcelでも管理できますか?
案件数が少ないうちはExcelでも管理できます。ただし、進行中の全案件について毎月「予定粗利・実績原価・着地見込み」を更新し続けるのは手間がかかり、案件が増えるほど更新が追いつかなくなりがちです。運用が回らなくなった段階で、システム化を検討するとよいでしょう。
Q6. 月次の粗利確認では何を見ればよいですか?
案件ごとに3つの数字を並べると分かりやすくなります。(1)見積時の予定粗利、(2)これまでに発生した実績原価、(3)残工事を加味した着地見込み粗利の3つです。この3つを毎月更新すれば、予定粗利が削られそうな危険な案件を早期に発見できます。
Q7. どの案件から粗利改善に取り組めばよいですか?
まずは粗利率の低い案件と高い案件を見極めることから始めましょう。案件別粗利を蓄積すると「どの工種・顧客層で粗利が取れるか」が見えてきます。採算の合わない案件を減らし、粗利の取れる仕事に力を集中するだけでも、会社全体の粗利は改善しやすくなります。
赤字案件は、完了前に気づける。
工務店HUBは、見積・実行予算・発注・原価・現場日報を1つの案件で連動。案件別の見込み粗利を月次で一覧化でき、予定粗利が消える前に手を打てます。
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